パジャマ人間

日常の思考や嗜好やなにかの感想など

桐野夏生『東京島』

アナタハン島事件をもとに書かれた小説。

世界一周クルーズの最中に嵐に巻き込まれ、無人島に流れ着いた清子と夫の隆。その後、きついアルバイトから逃げてきた日本人の若者たちや謎の中国人たちが次々と無人島にやってくる。清子以外は全員男性だ。彼らは、この島を「トウキョウ」と呼び、なんとか暮らしていた。

四十代で島でいちばん太っている清子だが、たったひとりの女性である。清子は男性たちに求められるが、夫の林を亡くし、次の夫のカスカベも亡くし、くじ引きで夫を選ぶシステムを導入される。そして、時が経つにつれ男性たちは清子のことを疎ましく感じるようになってくる。

 

清子を巡っての殺し合いとかそういう激しい場面があるのかと思ったがそういうことはなく、清子が女として求められていた時期が過ぎ去ってからの東京島の様子が主である。 

清子は自分本位で性格があまりよろしくないのだが、こういう状況下で生きるか死ぬかのことを考えればまあそうなるのもわからないでもない。清子の夫の隆が、無人島に着く前までの清子はおとなしく従順な妻だったみたいなことを航海日誌に書いている描写があって、清子が強かでたくましくなったのはこういう状況下になったからだということも伺える。こういう状況下ならではといえば、男性たちも暴力的になったり狂ったり二重人格になったりと多種多様な個性や醜さを見せる。

清子がみんなを裏切って中国人たちとこっそり脱出しようとして失敗し、また島に戻ってきてからは、男性たちは清子に冷たくなる。あからさまに迫害したりはしないが、親切にもしない。そして、男性同士でカップルになる者も現れ始め、清子の存在意義がどんどん危うくなっていく。この部分が、とてもおもしろいと思った。「女性である」ということが東京島での清子の唯一の存在意義であったが、それが必要とされなくなってしまったら、という恐怖を清子は感じるのだ。それどころか、男性たちは清子を「異物」として疎ましく思い始め団結し始めている。しかし、それでも清子は、なんとしてでも生きぬいてやろうと強く思い改めるのだ。

主な語り手は清子だが、清子以外にも、ワタナベやマンタさんやGMなどが語り手になる章があり、マンタさんの章が私は不思議でおもしろかった。ワタナベも清子目線では不気味で気持ち悪い嫌なやつだったが、ワタナベ目線ではコミカルでおもしろいやつだった。

ラストは、島を脱出できた者たち、島に残らざるを得なかった者たちのそれぞれの状況描写があり、まあそうかーそういう感じかーという、なんというか平坦な気持ちになった。

東京島 (新潮文庫)

東京島 (新潮文庫)

 

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